【読書】J. S. デッカー『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』上田勢子訳 明石書店 2019

https://www.akashi.co.jp/book/b453977.html

ずっと読まなければと思っていた本。当事者だが、というよりむしろ当事者だからかわけもなく尻込みしてずっと読まずにいた。過去のあれやこれやを思い出してしんどいこともあるかもと思っていたからだ。読んでよかった。確かにあれやこれやを思い出したけれども、ピースが足りずずっとあやふやのモザイク状だった隙間を埋めた感じ、またはくしゃくしゃだった頭の中にスチームアイロンをかけた感じで、何かメンテナンスが完了したような感覚だ。特にパート1の基礎知識が自分のことながらとても役に立った。ここは自分のsexual orientationを疑っているわけではいないが何かもやっとするものもあるような人も一度読むといいのではないかと思う。そういう人は多いのではないか?

アセクシュアルではないがアセクシュアルについて知りたい、理解したいという人は特にパート3と5から読むといい。1は知識があまりない当事者には目から鱗の読書体験になると思うけど非当事者は混乱するかもしれない。理解が進んでそれなりに景色が見えるようになってからでもいい気がする。拙速にわかった気になってほしくない。誤解したままそれを是として正として主張したりしてほしくない。

現状アセクシュアルについて日本語で読める書籍はこれ1冊なのだが、原著の出版が2014年なのでここに書かれているアセクシュアルをめぐる状況はもうかなり変わっていると思う。新しい今の本が欲しいが、英語で新しいスタンダードとして評価されているものが出ているのかどうかもわからない。

話はこの本から離れるけど、本が1冊しかないような状況で非当事者がアセクシュアルをネタに話や漫画を書いたりはやはりしてほしくないなと改めて思う。数の上でもはるかに多く認知度の高さも比べものにならない同性愛者ですらいまだ無神経な消費対象としか見ないものも少なくないことを考えるとアセクシュアルがどう扱われるかなど推して知るべしだ。認知度が高くなって増えるのは正しい理解者だけではないということでもある。私が生きている間にどの程度ましになるのだろうか

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