2月の読書

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私が諸島である カリブ海思想入門私が諸島である カリブ海思想入門
読了日:02月11日 著者:中村達
不穏の書、断章不穏の書、断章
読了日:02月12日 著者:フェルナンド ペソア
新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)
読了日:02月13日 著者:フェルナンド・ペソア
フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路
読了日:02月15日 著者:澤田 直
鷲か太陽か? (岩波文庫 赤797-2)鷲か太陽か? (岩波文庫 赤797-2)
読了日:02月16日 著者:オクタビオ・パス
妖精・幽霊短編小説集: 『ダブリナーズ』と異界の住人たち (949;949) (平凡社ライブラリー 949)妖精・幽霊短編小説集: 『ダブリナーズ』と異界の住人たち (949;949) (平凡社ライブラリー 949)
読了日:02月18日 著者:J.ジョイス,W.B.イェイツ
ダブリン市民ダブリン市民
読了日:02月21日 著者:ジェイムズ・ジョイス

私が諸島である カリブ海思想入門』これは必読。植民地支配によって奪われ抑圧された独自のナラティブを認識・回復しようとするカリブ海思想の歩みが論じられ、いかに西洋中心の言語、歴史や時間の認識方法に世界が覆われているかを思い知って放心状態になったところから、フェミニズムクィアの観点からそれら先達の文学思想の男性中心主義・異性愛規範・男女二元論を批判、そこまで論じてきた歴史をとらえ直し、見える世界の違いを明らかにする最後の2章が特に圧巻だった。思想でも文学でも、基本的には男性中心だしクィアの視点もなく世界の偏った一面的な話だよなという不満がつきまとうことが多いのでとても満足した。

古本屋でペソア『不穏の書』の単行本を見つけたのをきっかけに長らく積んでいた平凡社ライブラリー版をようやく。100年前のポルトガルに生きていた同類の日記を読むようで心が温かくなる。創作ではあるが小説ではない、ストーリーはなく、断章であるこの形式が今の自分の気分に運命的にフィットした感じがする。そのままの勢いで刊行後すぐ買って積んでいた『フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路』を一気に読んだ。すばらしいページターナーの評伝で、ペソアを読んだら必ずそばに置きたいような本ではあるのだが、クィアの読者としての批判点がかなり強くある。
それはペソアセクシュアリティに関する推論はヘテロ規範にとらわれすぎだろうと思われること。女性との恋愛が一度きりであることとそれが失敗に終わったこと、そして作品にも女性がほとんど登場しないことをおもにミソジニーとしてのみとらえ、それが作品に影を投げかけているとするのは早計なのではと思う。ヘテロセクシュアルではないかもしれないという可能性すらこのように忌避する必要はないはずだ。ペソア本人ではないけれども、不穏の書を読みながらこの語り手ベルナルド・ソアレスは非異性愛者、aspec*的だと感じたし、この評伝によるとペソアを同性愛者と推測する研究が少なからずあるようで、作品を読めばそうした批評はまああるだろうなと思った(言うまでもないがそれを外野が決定することはできないしその必要もない。異性愛者であると確信した場合にはしないことだ)。女性との恋愛がうまくいかない・女性への言及がない=ミソジニーである・作品の暗さを説明する、同性愛に親和的=当時のホモソーシャルではそう見えてもしかたがない(=同性愛者ではない)、等という推測はクィアネス消去の意図せぬ意図を感じてかなりテンションが下がってしまった。

*aspec: アロマンティック/アセクシュアルスペクトラム(グラデーション)。アロマンティック/アセクシュアルを言わば見出し語としてそのサブカテゴリーや当てはまる強度の違いをすべて含んだうえでそのどこかにあるアイデンティティという意味

今年は読んでいない著名作家を読んでみようという裏(?)テーマがあり、ジェイムズ・ジョイスはその対象の1人。『ダブリン市民』はとてもよかった。オチのあるようなストーリーではなく表面的には何事が起きるわけでもないのだが、人の生活のなかでの一瞬の静止、瓦解、腐敗、のようなものって刻々と起きているんだよなという…嫌な汗をじっとりとかくような緊張感を覚えるのは物語のステレオタイプを刷り込んでしまっているせいもあるのかもしれない。何かが起きそうな不穏な空気が張り詰める。しかしその緊張に見合うような何かは起きない。ぎこちない誰かがいる。

オクタビオ・パス『鷲か太陽か?』書店で見てなんとなく買ったのだがシュルレアリスムはあまり好みではなく、少なくとも今ではないなという感じでぱらぱらと読んで終える。解説によると「鷲か太陽か」はメキシコで1ペソ硬貨を跳ね上げて表裏を決める時に慣習的に言う言葉らしい。かっこいいな

しばらくうまく本を読めない時期が続いていて、本を開いても他のことが気になったりまったく文字列を追えなかったりしていたが、慣れを取り戻したかもしれない。読書時集中したくて耳栓をしていたがそれも不要になってきた。

 

パレスチナの状況は悪化し続けており、それこそ未曾有の大規模爆撃・狙撃の果てに飢餓が襲いかかっている。人種差別がジェノサイドを支援している。パレスチナだけでなくイラン、シリア、コンゴ、トルコはじめ日本を含めた世界中でおこなわれているすべての殺戮と抑圧を強く非難する