【読書】北村紗衣『批評の教室』ちくま新書 2021

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批評の解説書についての感想を書くのはちょっと緊張感がある。記録がてら要点だけ。第2章の最後に対象作品と関連のある/ありそうな作品や事柄をどんどんつなげていくネットワーキングという手法が紹介されていて、ここでは例としてテネットのネットワーク図が掲載されているのだがこれがとてもおもしろかった。箇条書き的に作品や事項が並んでいるだけ(コメントや補足はある)なのに読みがいがある。なんなら観た気になるぐらいだ。テネットはどうも乗れず開始20分ぐらいでやめてそれきりなのだが、このネットワーク図を頭に置きながら再挑戦してみようかという気になる。あとおもしろかったのは第4章、北村先生と学生の飯島氏が同じ作品について書いた批評をお互いにレビューし話し合う実践編。あたりまえなのだが同じ作品についてまったく違う観点から批評が書かれ、それぞれへの指摘事項はなるほどだし、指摘しつつ議論することでまたさらに鑑賞体験の密度が高まる。この第4章のおもしろさ、議論を経ての内容の濃さを考えると、読んだり観たりした作品について話し合う場所がTwitterとかではなくやっぱりほしいなと思った。私はどちらかといえば一人で何かするのが好きな方だけど、こんな風に自分でもまじめに批評し他人とそれについてこまかく話すそういうゼミみたいな環境はやはりいいな、たまに必要だなと思う。大学を出てしまうとそういう場所を作るのはとても難しいけど。私は美術史出身だし卒業したのがすでに何十年も前で批評理論を学ばずにきているけれども、それでも修士論文出したぐらいまでは勉強した中で、絵画限定ではあるもののそれなりに批評の方法論を身につけることができたのだなということがわかったのもよかった。でも学部時代いや新入生の時にこういう本があり批評理論を学ぶクラスがあればもっと確実に進められたというか苦労の無駄打ちを少なくできたんじゃないかと思うので、文学部系の学生には専門によらずおすすめしたい。
話はこの本からまったく離れてしまうが改めてふだん私がいるTwitterは議論をするプラットフォームではないなとつくづく実感した。用途が違うという意味だ。その用途にできていない場所で用途に適さないことが行われているからストレスが溜まる。かといって差別者がふっかけてきたものを無視したり放置しているとそれが次第にしっかりと根を張り次の世論を形成してしまうのは歴史修正主義のはびこりに明らかなので、自分の態度は明確にしておかなければならない。おのおのできることやっていけることをやっていくしかないが、応答し反論をひとつひとつしている人たちの労力にはほんとうに頭が下がる。