2022年のまとめ

去年のまとめを読みながらこんなこと考えてたのか、知らんかった…みたいになっている。すっかり忘れていることも多いのにそのわりに1年はあっという間で、ウィークリーの手帳ならたった50枚ちょっとめくれば終わりだし、やってることも思うほどない。一秒一秒をちゃんと生きてないのだなと感じたりもするが人間そんなものだ、というよりも一秒一秒をちゃんと生きようなんて考え方はぜったいにしたくない。「ちゃんと」ってなんだという話で、「生産性」みたいなファッキン忌々しい概念に容易に堕するだろう。ぼんやりと、できるだけ気の向くまま向かないままに生きるのだ。「罪悪感」というものを感じないようにすることをこの数年目指してきていて、少しずつそれは達成されている。

去年のまとめにしたがってドラマとか本とか映画とか音楽の話をしてみよう。今年の変化はまず10年ほど突っ込んでいたkpopのオタクの第一線を退いたこと。今年に入って規制が緩和されkpopの来日コンサートも再開されたのだが、コロナと自分と家族の塩梅から鑑みて現場をあきらめることにしたら憑き物が落ちたように情報を追わなくなってしまった。まあほかのいろいろの要因が重なったり累積したりした結果だとは思うけれど、コンサートに行くのをやめたというのはとても大きいきっかけだったようだ。kpopのオタクをやめた話は単独でちょっと書いてみようかと思い続けてうまくいっていない。kpopを好きでいるとkpopの非人道的システム(長時間・長期間の高負荷の練習、外見を整えることへの不当な要求、私生活の抑圧等々。ファンダムや社会規範による圧力も含めて)や、カムバごとのコンセプトやMVの演出が演じるアーティストや受け手の特に若い人たちにとって有害でないかなどを常に懸念したり批判することになるので、オタクをやめたことでそのジレンマから解放された安堵感は自分でも意外なほど大きかった(もちろん批判自体が不要になったわけではない)。正直自分でもここまで熱が冷めた理由はぜんぜんわからない。ほとんどのぞかなくなってしまったkpopを追うためのアカウントの方をたまに見ても、あれほど好きだったはずのkpopの作り込まれ方もなんだか今は違和感が大きく、ただかれら(ジェンダーを問わず使っている)の幸せを願うのみである。なんとかもう少し自由にアーティスト活動ができるようになってほしい。

とはいえkpopの音源はそれなりに聴いている。すでにツイートした今年のマイベストアルバム12枚のうち3枚はkpopだった。今年デビューしたルセラピムのファーストもよかった。

 

去年のまとめに「今年はドラマをよく観た」と書いていたけど今年はさらにドラマをよく観たと思う。上半期13作品、下半期は25作品観ていて、シーズン数にすると45ぐらいになるんじゃないだろうか。映画館にほとんど行かなくなってしまい新作が追えなくなったせいもあるかもしれないが(ドラマは新作を観るのが機会としてはたやすいので)、たくさん観るようになると映画とは違うドラマの語りのリズムというのがなんとなくわかってくるとともに、今はそのリズムが自分の感覚にしっくりきているのかなという気がしている。新作ばかりを追うのがいいわけではもちろんないけれど、私はLGBTQ+フレンドリーというか、クィアな登場人物が出ない・ちゃんと扱われない作品はもうあんまり観たくないな、観なくてもいいなという気持ちが強いので、どうしても最近のものを選ぶことが多い。そういう観点からは5年前だともうちょっと価値観が古い時期になる。

今年kpopの熱が冷めて、いわゆる「推し」という存在はもう現れないかもしれないなあなどと感慨にふけるひまもなく新たにドボンした人が2人現れてしまった。上半期にどハマりしたNetflixスウェーデンのドラマ、ヤング・ロイヤルズのOmar Rudberg(オマール・ルドバリという日本語表記はあるものの発音が難しいのでなんとなく原語のまま書いている)と、下半期に突如知った2016年のドラマ、エクソシスト主演のベン・ダニエルズである。

Omarはもともとアイドル出身のシンガーでそちらのキャリアはもう10年とかになるのだが演技はこれが初めて。ワーキングクラス出身で社会問題にも意識が強くconfidentで誰に対しても臆せず自分の意見を言うような役柄をとてもよく演じていた。その役がすばらしかったのもあるけれど、おそらくいちばん惹かれたのはかれ(ジェンダーを問わず使っている)のジェンダーエクスプレッションだと思う。要は私にとって理想の人、こうなりたかった人だったのだ。kpopにしても俳優にしても最終完成物としてのパフォーマンス、演技にしか基本的に興味がないのでバラエティやトークを見ることがあまりないのだが、Omarのインタビューやトークはとにかく漁って探してほんとうによく観た(スウェーデンの人はなぜか英語を堪能に操る人が多く英語のものが多かったしスウェーデン語でもたいてい英語字幕がついている)。スウェーデン語も勉強しようかとテキストを買ってしまったぐらいだ(読み方が難しすぎてトライもせず放置となったけど)。ドラマの方は11月にS2がリリースとなったのだけど残念ながらS1と比べると格段に出来が落ちてしまい、少し熱は冷めた。けれどもOmarはこれからも活動を見ていきたい人だ。シンガーとしてもとても説得力のあるいい声をしており、Apple Musicのまとめによると今年ダントツの再生回数を誇ったのはOmarだった。

www.netflix.com

ベン・ダニエルズはTwitterのタイムラインで見かけた情報で観てみたドラマ、エクソシストを1シーズン観終えたところで気づいたらもうだめだった(もうだめだったとは)。

エクソシストを観る

名前も顔も覚えがなく、いったい今までどこにいたのかと出演作を調べたらすでに観ていたもの数作にも記憶にある役柄で出ており驚いてしまった。こんなにすばらしい俳優を覚えていないとは。80年代から舞台に、90年代から映画テレビに出ていてフィルモグラフィがとても長い。長すぎるのでとりあえず2000年で区切ってすべてリストアップし、日本で観られるものをDVDレンタルの2本を除いてすべて観るという暴挙に出るほど好きになってしまった。気になった人のフィルモグラフィーを見るぐらいは日頃から基本動作だが、スプレッドシートにまとめて片っぱしから全部観るなんてそんなことは初めてやった。ベン・ダニエルズはとにかく声が、デリバリーがすばらしく、長台詞はまさに絶品、周りの空間ごと一点に凝集してしまうような力があり、息をするのも忘れてしまう。演技をいつまでも観ていたい、この時間が終わらなければいいのに、みたいな状態になる。だいぶ遅れたけれど、知ることができて幸運だった。おすすめするとすればextreamly charming(出典:S2E4)な凄腕エクソシストの神父(元)を演じるエクソシストか、社会正義をなすことに身を捧げる鉄壁検事を演じる2009年のドラマ、ロー・アンド・オーダーUKをあげたい。出演最終回であるS2最終13話は司法妨害の疑いで逮捕され自分で弁護をするのだが、法廷での応酬、法と検事という職務についての演説、ほんとうにすばらしくて台詞を覚えるほど何度も見返している。エクソシストアマゾンプライム無料だけれどこちらは有料レンタルしかないのが残念。ちなみに1シーズンレンタルするなら全話購入の方が安い。

ロー・アンド・オーダーUKを観る(レンタル)

例年と変わらず今年も本はあまり読めなかった。アメコミ・グラフィックノベルを入れて40冊ぐらい。しかし生涯の1冊になるかもしれないと思える作品に出会った。Hanya YanagiharaのA Little Life。もう1冊は軽快なエンタメながら、ぼんやりしているとあたりまえに受け入れ受け流してしまっているようなマジョリティのさまざまな価値観、社会規範を疑い根底からひっくり返す衝撃のロマンス、Alexis HallのHusband Materialだ。

A Little Lifeは主人公が凄惨な虐待のサバイバーで、トリガーウォーニングが長大なことでも知られており、決して気軽に人に勧められるような作品ではない。主人公をとりまく学生時代からの近しい友人たちの数十年にわたる人生を描いていて、あらすじを説明するのは難しい作品でもある。人の負った傷は容易には癒えない、たとえどれほど友人やサポートに恵まれても、経済的に成功しても、ということに改めて気づかされ、そうであっても生きた存在はひとしくrespectに値すると思える。読んだきっかけはNetflix映画『オールド・ガード』(同性どうしの堂々たるロマンス描写が高い評価を得た)で数百年来の熱烈なrelationshipを演じるマーワン・ケンザリが、このカップルの関係性を脚本で読んだときにA Little Lifeを思い出したとVultureのインタビューで話していたことだった。そこで初めて知った作品だったのでケンザリ氏には感謝してもしきれない。

Husband Materialは邦訳も出ているBoyfriend Material(『ボーイフレンド演じます』)の続編。Boyfriend Materialもよかったのだが、この続編がそれをはるかに上回ってすばらしかった。前作で紆余曲折のあげくに「震えながら」付き合ってみることにしたルシアンとオリバーが、周囲が結婚したり新しいrelationshipや家族を始めたりするのを見ながら自分たちもなんとなく「結婚」を意識し始めるが…とあらすじを言えばそんな感じなのだが、ちょっとした慣用句から「結婚」という制度に至るまであらゆる社会規範を疑い、それに自分たちがフィットできるのか、そもそもすべきなのかを七転八倒で考え抜く話で、読んでいて「すごい…」となっていったん本を閉じ(Kindleだけど)天を仰ぐということを何度もやった。全編にわたってダイナミックな問いを立て続けてラストまでその勢いが衰えない。なおかつしっかりハートウォーミングなロマンスになっていてぐうの音も出ない。書いているうちにまた読みたくなってしまった。

映画、ドラマ、本もマイベストはツイートしたのでまとめということで下にリンクしておこう。

 

去年は読んでよかったウェブ記事の紹介もしてたけれど、今年はあまりチェックできていない。音楽の記事におもしろいものがけっこうあった。

ブリアル約15年ぶりとなる長編作品到着 憑在論からのテイクオフ──抹消されたビートと語り部としての声 http://turntokyo.com/features/burial-antidawn/

D.O.I.の語るリル・ナズ・Xサウンドの革新性。曰く「未来的」で「パラダイムシフト級」 | EYESCREAM https://eyescream.jp/music/113169/

いま再注目のレゲトンとは? 特徴はリズム「デンボー」にあり【サウンドパックとヒップホップ 第10回】https://blogs.soundmain.net/15634/

この記事は必読と思う。「溶け込む」ことを余儀なくされ、知られること記録されることが少なく消えようとしている人生たち。それを記録しようとする人。
東北の男性と結婚した外国人女性たちの経験。「不可視化」の理由と託された言葉の数々。#移住女性の声を聴く|ニッポン複雑紀行 
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/hirokimochizuki12

 

趣味以外の出来事だと近視と老眼の折り合いがいよいよつかなくなり重い腰を上げて眼科に通って遠近両用のコンタクトレンズを初めて買ったり、エアコンの掃除を大枚はたいてプロに頼んだ後つけたら新品の匂いがして狂喜したり、窓に水で貼り付ける断熱シートを貼って感動したり、借りっぱなしでコロナに突入しタイミングを逸していた本をお返しすることができたり、やはりコロナで数年会えずにいた友人とやっと会って散策したり、珍しくホリデーシーズンのプレゼントをブラックフライデーぐらいからこまごまと買い足して満足のいくものを複数用意できたり、さいわい身体的にも大きな不調もなかったり、わりと何事もなくよい感じの1年だったのかなと思う。引き続きゆるゆると記録をつけながら日々を過ごしていきたい。