10月の読書

読んだ本の数:4
読んだページ数:1467

シークレット・ヒストリー〈上〉 (扶桑社ミステリー)シークレット・ヒストリー〈上〉 (扶桑社ミステリー)
読了日:10月15日 著者:ドナ タート
シークレット・ヒストリー〈下〉 (扶桑社ミステリー)シークレット・ヒストリー〈下〉 (扶桑社ミステリー)
読了日:10月16日 著者:ドナ タート
書記バートルビー/漂流船 (光文社古典新訳文庫)書記バートルビー/漂流船 (光文社古典新訳文庫)
読了日:10月21日 著者:メルヴィル
ジョヴァンニの部屋 (白水Uブックス (57))ジョヴァンニの部屋 (白水Uブックス (57))
読了日:10月24日 著者:ジェームズ・ボールドウィン




『シークレット・ヒストリー』なんというか、刺さる年齢は中高生かなと思う、記憶の中の15の心が騒がしく掻き立てられた。ここではないどこか、こちらではないあちら、筋金入りの富裕層との間の到底越えることのできない壁、その向こう側への憧憬、渇望がリアル。なのだが全般的に食い足りない。衒学的なサークルという設定だけどアカデミックな会話や議論は多くなく、キャラクターの踏み込みも全員もの足りなくて900ページ読んでも区別がつきにくかった。クィア界隈で複数からこのタイトルを見かけたので読んでみたのだが、確かにクィアなキャラクターがおそらく複数いるものの1人を除けばおそらくとしか言いようがなくまたその1人もクィアネス由来の悲劇プロットをあてられるなどしており、1992年という刊行年の制約なのかなと思う。クィアを期待して読むと肩透かしかと。飽きずに読めたけど好きとか読んでよかったとかではない。読後感のいい話でもなく、食い足りなさもあいまって気分が持ち直すのに少し時間がかかった。いちばんの失望点は衒学的設定がたいして衒学的ではなかったところかな。アカデミックな空気を醸し出しきれておらず、次第に大学生活の中での若者たちのありがちないざこざになってしまう。

『書記バートルビー』はいろんなところで引用や言及を見すぎるので読んでおこうと思ったものなのだがなるほど読みがいがある物語。生の拒絶と言おうか。ネットで検索すると柴田元幸訳の全文がなぜか放送大学のPDF直リンクで読める。語り口がまったく違うのでお好みで。
書写人バートルビー ウォール街の物語 柴田元幸
https://info.ouj.ac.jp/~gaikokugo/meisaku07/eBook/bartleby_h.pdf

『ジョヴァンニの部屋』なんともしんどかった。古いのでよけいに、社会によりスティグマ化されたゲイ/バイセクシュアリティに悩み痛めつけられ苦しみ抜く話なので。そしてミソジニーがきつい。同性を性/愛の対象とするがそれは社会的に蔑まれ憎まれ承認されないことであるというジレンマ、相手が/自分が女でありさえすれば、という絶望がひっくり返ったものという側面もあるのだろうけど。
しかしジェームズ・ボールドウィンの邦訳状況は惨憺たる有様でほとんどすべて絶版なのではないだろうか。本人の著作ではないが『ジェイムズ・ボールドウィンアメリカ』というボールドウィンの著作・発言を跡づけつつ論じるアメリカ論的な2020年の著作が9月に翻訳されたばかりで、読みたいと思っているものの価格にやや怯む。

www.hakusuisha.co.jp

イスラエルパレスチナにやってきたこと、やっていることはジェノサイドだ。即時停止を

9月の読書

読んだ本の数:4
読んだページ数:1549

Aristotle and Dante Dive into the Waters of the World (English Edition)Aristotle and Dante Dive into the Waters of the World (English Edition)
読了日:09月07日 著者:Benjamin Alire Saenz
〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か
読了日:09月11日 著者:朱 喜哲
ホメーロスの イーリアス物語 (岩波少年文庫)ホメーロスの イーリアス物語 (岩波少年文庫)
読了日:09月12日 著者:バーバラ・レオニ・ピカード
The Song of AchillesThe Song of Achilles
読了日:09月16日 著者:Madeline Miller

今月はなんといってもイリアス。『アキレウスの歌』(お値段の関係で原書The Song οf Achilles)を読む前に元の話を知っておこうと思って岩波少年文庫1冊の手軽なものを選んだのだが、散文で現代語に起こした再話として定評があるものらしい。日本でイメージすると関ヶ原の合戦の場面だけの12時間時代劇みたいな感じかもしれない。戦闘の中で趨勢があり人間ドラマがあり手に汗握る一騎打ちがあり怒濤の進軍があり神がいずれかに力を与えたり削いだりする。ものすごく読ませる。この時代なのでとても残忍だし奴隷が戦利品としてやりとりされるし女性はひたすらか弱いし男のメンツで人が死ぬ(というかトロイア戦争自体がそれで始まって10年も戦い続けた)などもまあさておき、ちょっとした動作や心理の描写が非常にリアルで鮮やか。たとえば親友を殺してその鎧兜を身につけた敵を見つけたときに「怒りがふきあげてきて、思わず胸のあたりで手をぎゅっとにぎりしめた」というくだりなどはほんとうに秀逸だと思う。こういう表現が随所にちりばめられており、感嘆しっぱなしだった。

そしてイリアスを読んで臨んだThe Song of Achillesはこれまたクィアの古典の名に恥じぬすばらしい作品だった。最後はべそべそに泣いてしまった。イリアスのまさに行間を埋めるものという感じがするのは「都合のよさ」を感じさせないからだと思う。そうかあの時こんなことがあったのかなどと違和感なく得心できてしまう。原典を徹底的に読み込んでいるのだろうと思う。執筆に10年かかっているらしい、奇しくもトロイア戦争と同じ期間。『アキレウスの歌』はぜひどの版でもいいのでイリアスを読んでから読んでほしい。m/mロマンスを無理やり引っ張り出したのではないことがわかるし、物語とその結末を知ったうえで読むと、神の予言に支配されたモータルたちの物語をより切実に心に刻めると思う。

イリアスに関しては、偶然9月末に女性によるものとしては初めて(らしい)の英語全訳が出たばかりでとても気になっている。まさに正当かつ最高なことに、発売直前に訳者エミリー・ウィルソンに『アキレウスの歌』のマデリン・ミラーが質問を送るという体裁の記事が出ていてこれもまたおもしろかった。翻訳にあたっては韻文のリズムを取り戻す(既存の翻訳は散文が多いらしい)ことにこだわったこと、今の言語感覚だとよく意味がわからない場合も訳しすぎず直訳を使ったこと(遠い他文化としてあえて他者化する)などおもしろい話ばかり。クィア界隈にとって重要なアイコンであるアキレウスパトロクロスの関係性についてはどう解釈したかももちろん聞かれていて、詳しい話は解説に出し本文の方は意訳はしないように努めたと明かしている。クィア性を排除したということではなく、パトロキレス(と言っている笑)が恋人であるとはプラトンも言及しているしアイスキュロスも自作で恋人として描いているなど長い歴史があること、古代ギリシャでは性的接触は愛情や親密さと必ずしも結びついていないと考えられることなども話していてとても読み応えがあった。
エミリー・ウィルソン氏、パトロクロスの死を嘆いて涙しアキレウスには早い死の予言を伝えたアキレウスの2頭の不死の馬バリオスとクサントスのタトゥーを最近腕に入れたことも話しておりファンになるしかない(画像検索でタトゥーも確認した)。

lithub.com

Aristotle and Dante Dive into the Waters of the Worldは『アリとダンテ、世界の秘密を発見する』の続編でラストのその日というか翌日から始まる。引き続き語り手はアリで、それにしてもアリが家族や友達に心を開いていく話が主になっており、それはそれでよいのだが、前編では唯一無二の個性でアリの人生を変えたダンテのキャラクター、存在がほとんど感じられなくなってしまっている。序盤はよいのだがだんだんと文章が平板になっていく気がするのも少し残念かもしれない。また家族や友だちが理解がありすぎるというか、世界がそうならどれほどの命を救うかわからないしそうあってほしさもあるものの、さすがにここまでになるとご都合主義に見えてしまうラインを超えてるかな、と感じる。もしかしたらそれをあまりにもたくさんの人が台詞で言いすぎているのかもしれない。みな一様に同じ色合いの理解を示しすぎる。周囲に理解と愛がありすぎる問題は前編でもあるのだが、そうではない現実を生きる当事者を救うか、それとも疎外感に苛むか五分五分かもなという感じはある作品。あくまでも私の場合はだけど、理解し支えてくれる生涯の親友がひとりもいなくてもそれは孤独で寂しいことを意味しないという話があるといいなと思う。ダンテが実はそういう人物かもしれないと思えたのだが(ただ私なら持て余すだろう溺れるほどにあふれる両親の愛情に包まれて本人も両親に夢中だと言うような人なのだが、心を許せる友達はダンテはアリ以外にはいない。少なくとも描かれていない)、でもそれもこの続編を読んだ後だとキャラクター構築が十分に及んでいなくて描ききれていないだけなのかもしれないと感じる。前編ではダンテは「十分にメキシコ人ではない」自分に葛藤を抱えていることが垣間見えていて、それはダンテのアイデンティティの中でかなり大きな問題だったし、それがもう少し掘り下げられるとよかったと思うのだが、それは果たされないだけでなく、なんかこういってはあれだがひたすらアリに夢中で恋のためにすべてを捨ててかまわない人になっており、きらめきがだいぶ減じていたと思う。アリとダンテの話ではなかった。アリから見たアリとダンテを含むアリの話で、タイトルから想像できる感じの話ではなかったと思う。これは翻訳されている前編を激奨します。

8月の読書

読んだ本の数:3
読んだページ数:751
ナイス数:1

Gender Queer: A Memoir (English Edition)Gender Queer: A Memoir (English Edition)
読了日:08月16日 著者:Maia Kobabe
クイア・スタディーズ (思考のフロンティア)クイア・スタディーズ (思考のフロンティア)
読了日:08月30日 著者:河口 和也
アリとダンテ、宇宙の秘密を発見するアリとダンテ、宇宙の秘密を発見する
読了日:08月31日 著者:ベンジャミン・アリーレ・サエンス

なんとか3冊読めた。暑さのせいかSNSの不安定さ(地滑り的に日々不穏になっていく旧Twitterに残るのかマストドンにするかbluskyにするか)のせいか先月に続いてなかなか読書に集中できない。そんな中30日だったか旧Twitterの私のアカウントが凍結されてしまった。心当たりはあるが省略する。どうせTwitterは早晩捨てるつもりだったのだしと思う一方で、あまりに長年インフラと化していた場所が使えなくなり、勝手がわからずワタワタしてしまっている。ワタワタしつつも、アクセスできないことで時間ができたのは読了日付からも明らかで…まあほんとに、これでよかったのかもしれない。9月はどんどん読むぞ、まだ当分酷暑は続くみたいだけど。

『Gender Queer』はいまサウザンブックスで翻訳クラウドファンディングが進んでいるグラフィックノベル。性別二元論になじめず、恋愛や性愛についてもどうやら人と違うようだと感じた主人公の試行錯誤の年月を包み隠さずシェアするような内容でたいへんよかった。ジェンダーや恋愛・性愛に悩んだり迷ったり人と違うのかもと感じているすべての人、特に若い人たちがたとえば学校や地域の図書館でこのような本に出会えることを祈りたくなる。よかったら支援を。

『クイア・スタディーズ』は少しまとめて勉強したいなと思い、Kindle Unlimitedに入っていたものを手始めに読んだ。とはなんぞやみたいな段階なので感想はまだない。

『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』ずっと読みたいと思っていたのだが翻訳が出ることをまったくキャッチしておらず、発売日に知って即購入しすぐ読んだ。ゲイの高校生同士のカミングオブエイジストーリーで、語り手はそのうちの1人アリ。その年齢らしい、簡潔なもどかしい言葉で語られていくのだが、自分自身や親友のダンテ、そして家族たちをひとりの人間としてその内面をとらえようと懸命に思い巡らし汲み取ろうとするさまがリアルかつとても詩的ですばらしかった。なんと詩的な、と感動して訳者あとがきを読んだら作者は詩人だそうで(小説も書いているが肩書きの先頭は英語で調べたときも詩人だった)、主人公の2人も作中でよく詩を読んでいる。メキシコ系アメリカ人としてのアイデンティティ、その社会の保守性や男性性が自身の存在の探求に大きな力を及ぼしているのも特徴的。原書が2012年と10年以上前であることをあまり感じさせない、安心して読めるしおすすめできるクィアYAだと思う。誰も死なないのでそこも安心して読んでほしい。なんと続編が2021年に刊行されたそうで、早めに読みたい。

7月の読書

7月に読み終えた本はゼロ。開いては続かず別の本を開いてもまた続かずという感じでまったく手につかなかった。気もそぞろ、と書いてそういえば正確な意味を知らないと思って調べてみたら「あることに心を奪われて落ち着かないさま」とあるので、なんとなく集中力を欠き手につかない状態を指す言葉ではないのかもしれない。7月はなんとなく集中力を欠き手につかない状態で1冊も読み終えることができなかった。かわりにいま読もうとしている、すぐに読みたいと思っている本を書いておこう。

『花殺し月の殺人』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の邦題で10月に映画が公開される。先祖伝来の地を奪われ半ば強制移住させられた土地から石油が出てアメリカで最も裕福ともいわれたアメリカ先住民のオセージ族が連続殺人の被害にあった事件のノンフィクション。

『迷いの谷』
創元推理文庫平井呈一怪談翻訳集成シリーズの1冊。なんとなく「怪奇小説」とよばれるものを読みたい気分になったのと表紙が気に入って購入。

『笑いと忘却の書』ミラン・クンデラ
以前読んだ本(思い出せないが)で引用されていて気になっていた本なのだが、訃報を聞いたタイミングでなんとなく購入。ほんとうに「なんとなく」でやることが多い。

なんとなく集中力を欠き手につかない状態だった原因になるかもしれないことのひとつは勤務先のシステム変更がマイナンバー保険証のごたごたを連想させるごたごた状態でストレスが高まっていたことだった。さいわいなのか不幸なのかわからないがやはり利益を追求する企業としては問題だらけのシステムをごり押ししても損失が発生するだけという判断が働いたのかそれとももうなんかお話にならない不具合があったのかともかくいったん延期となり一息ついている。先送りになっただけかもしれない、おそらく追加予算をどーんとはずむわけもなく(そもそもの問題は当初予算を相当にケチったからなのではと疑っている)、再設定された日程の間際にまた同じことをやっているかもしれない。

もうひとつはa service formerly known as Twitterのごたごたである。コミュニケーションツールとしてではなく情報収集の手段として使っていた身にとっては、閲覧数が制限されたり、検索が機能的にどんどん信頼できるものではなくなっていったり、その頼りない検索結果にはモデレーションが機能しないことで差別や暴力的発言が含まれる割合が高くなっていったりというイーロン・マスク由来の問題はあまりにもストレスが高い。加えて性差別・ホモフォビアの扇動的発言を繰り返し人身売買などで逮捕もされているYouTuberだかなんだか知らないアンドリュー・テイトの凍結されたアカウントを復活させてなおかつ相当額の広告収益の分配も始めた。自分がサービスを使うことで広告主の餌となり、差別主義者の生活を支えるなどというのは耐えがたい。マスクが日々思いつきのように愚策を繰り出すので、本格的にTwitterを離れる方法を考えながらイライラしつつ嫌だ嫌だと言いつつなんだかんだとふだんよりむしろTwitterばかり見ていた気がする。

Twitterのもっとも便利で意味がある機能はやはりリアルタイム検索と、検索結果をリアルタイムからいちばん古いポストまで時系列で見ることができる点なので、閲覧数を制限され検索語の特に日本語の形態素解析がなんだかどんどんだめになっている(たとえば名詞1語で検索しても出ないが助詞を足すと出たりする)時点で相当有用性が下がってしまうのだが、それでもこれだけの数の個人と企業が使っていてアカウント横断のいわば串刺し検索ができるようなサービスは他にはないので、離れるといっても容易ではない、特に自分のような検索好きには。Twitterを使わずに本や映画や諸々の情報を探す方法がわからない。いまなんとか試行錯誤してみているが、10年以上Twitterに依存しすぎているのですぐには満足のいく代替方法は見つからないだろう。新しい自分のシステムを作らなければならない。

現時点でTwitterに最も近いであろうマストドンを試してみているが、もっと人が増えないと自分の用途には単体では足りないし、足りたとしてもTwitterでまかなっていたことをそのままマストドンでというのも結局同じ脆弱性があるのではという迷いもあるし、何よりマストドンは基本的に個人が立てたサーバーにお邪魔している形なので(よくは理解できていないが)、何らかの理由である日閉鎖される可能性はある。現にLGBTQ+の人たち向けのあるサーバーは嫌がらせに耐えかねて閉鎖された。Twitterからの流入が増えた結果の出来事かもしれず、ほんとうにやりきれないが。ある程度の数の人間が集まってしまった場合、人間の善性にたのむしかないシステムにはどうしたって限界があるのだろうか。乗り越えるにはどうしたらよいのだろう。

また政治、人種、性的指向ジェンダーアイデンティティ、障害などさまざまな理由でTwitterが生存の綱となっている人たちにとっては、閲覧数の制限や検索の不具合は死活問題となりうるし、重要なライフラインが差別や暴力が横行する場となるのは恐怖だし、「信条としてTwitterはもう使わない」などという選択肢が存在しない人がいることを考えると、情報収集という自分だけののんきな話などどうでもいいことではある。マスク以前のTwitterにしても別にとてもよい場所というわけではなかったし、ビッグテックが力を持ちすぎていることも深刻に有害である、それでもTwitterが生存のための重要な場となるなら、その場を最低限どうにかこうにか機能させなければならないのだが、そのためにはマスクをなんとかせねばならず、その方法はわからない。

6月の読書

読んだ本の数:11
読んだページ数:3090
ナイス数:1

彼女は水曜日に死んだ彼女は水曜日に死んだ
読了日:06月04日 著者:リチャード・ラング
ミスト 短編傑作選 (文春文庫)ミスト 短編傑作選 (文春文庫)
読了日:06月05日 著者:スティーヴン・キング
埋没した世界——トランスジェンダーふたりの往復書簡埋没した世界——トランスジェンダーふたりの往復書簡
読了日:06月18日 著者:五月 あかり,周司 あきら
寝煙草の危険寝煙草の危険
読了日:06月20日 著者:マリアーナ・エンリケス
岸辺露伴 ルーヴルへ行く (ジャンプコミックスDIGITAL)岸辺露伴 ルーヴルへ行く (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月20日 著者:荒木飛呂彦
ジョジョの奇妙な冒険 第1部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)ジョジョの奇妙な冒険 第1部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月20日 著者:荒木飛呂彦
ジョジョの奇妙な冒険 第2部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)ジョジョの奇妙な冒険 第2部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月21日 著者:荒木飛呂彦
ジョジョの奇妙な冒険 第3部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)ジョジョの奇妙な冒険 第3部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月22日 著者:荒木飛呂彦
ジョジョの奇妙な冒険 第4部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)ジョジョの奇妙な冒険 第4部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月24日 著者:荒木飛呂彦
ジョジョの奇妙な冒険 第5部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)ジョジョの奇妙な冒険 第5部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
読了日:06月25日 著者:荒木飛呂彦
世界 2023年7月号世界 2023年7月号
読了日:06月27日 著者: 

『彼女は水曜日に死んだ』翻訳読みの間でわりと話題で気になったので読んだ短編集なのだがだいたいどの話も映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』から不思議を引いたみたいな雰囲気で私はぜんぜんだめだった。逆に『アンダー・ザ・シルバーレイク』が好きなら好きかもしれない。私はまったく好きではない。

『ミスト』スティーヴン・キングはシャイニングとその続編しか読んだことがなかったので、ポイント50%の機会に購入。シャイニングはなんだかやさしみがそれこそ輝いていてよかったのだがこの短編集は厭度が高い話が多く、今はそういうのを読みたい感じではなかったので、すでにちょっと忘れてしまっている。

『埋没した世界』トランスジェンダーの人々(というかトランス女性)に関してトイレと銭湯の話しかしないような人がこれを読むとは思えないが、とんちんかんなことに拘泥しとらんでこれを読めと言いたい。出生時に間違って割り当てられた性別を生きるのをやめた人たちは、どこかの街で朝起きて仕事に行き友だちと会ったりジムで運動したりこうして書簡をやりとりしたりして生活している。虚心に読めば「トランスジェンダー問題」としてなどではなく、人が生きているということを身近に実感できるはず。
と他人事のような感想しかないわけではないのだが、何をどう書きとめればよいのかぜんぜんわからない。一文一文が強くぶつかってきて自分の中をかき回し、飛び出して書面に跳ね返ってはまた次の一文を読む、というような遅々とした読書でもあったし、またまったく遠い星の話を眺めているような部分もあった。自分自身のジェンダーアイデンティティを振り返って考えてみたり、さらに奥を考えるのが途方もないことのように思えて立ち止まったり、また考えては立ち止まり、結局それ以上立ち入ることが今はまだできていない。

『寝煙草の危険』これはとてもよい短編集だった。ジャンルとしてはホラーで、フォークロアというか土地に根ざし現実世界との境目が曖昧な異世界にいつのまにか足を踏み入れてしまっている。湿度が高いというよりも、いや湿度は高いのだが、それを肌感覚ではなく「臭い」(匂いではない)で感じる。マリアーナ・エンリケスはやはり短編集の『わたしたちが火の中でなくしたもの』を何年も積んでいるのだがすぐ読もうと思った(のにジョジョを読み出してしまった)。

今の時代日本語でSNSでもやっていれば必ず一度はその名を目にし耳に聞くだろう「ジョジョ」。実はコミックもアニメもいっさい見たことがなかったのだが、Twitterのプロモ広告で1話無料で『岸辺露伴ルーブルへ行く』を読んだところから人物造形と外連味と衣装が好きすぎて5部まで黙々と読んでしまった。時代が時代だけにセクシズム・ルッキズムホモフォビアなど今の目からはちょっと、と思う「ギャグ」などもしっかりあるのだが、それなのに紛れもないクィアネスが横溢しており、ちょっとよくわからない。いや別にそれらは現実に対立するものではないのだが。さすがに40冊ほど読み続けて疲れたのでいったんここで休止しつつ、Netflixでアニメ6部をぽちぽち観ている。けれどもアニメだと世に言う「ジョジョ立ち」など私のツボを突くポーズや構図が甘くダイナミズムに欠けるので私にとってはあまり意味がないかもしれない。6部1巻を試し読みしてみたがやはり断然文句なくコミックの絵柄と構図がすばらしかった。

『世界 7月号』金時鐘(キム・シジョン)「詩は書かれなくても存在する」目当てで購入。植民地朝鮮でハングルを知らずに「日本人」として育ち、済州島四・三事件(南北分断に抵抗した住民数万人が韓国政府に虐殺された事件)を生き延びて日本に逃れ、「在日」として生きることになった詩人。似た内容のことは他の著書でも書かれているようなのだが私はこの記事を紹介するツイートで初めて知った人なので。壮絶、という言葉は他者が使うにはあまりにも空虚で、日本人(都度定義すべき言葉だが日本の植民地支配の話をするときのそれ)がこの人の人生について使うのも無責任に思える。読んでよかったし他の著書も読んでみようと思う。

5月の読書

読んだ本の数:1
読んだページ数:179
ナイス数:0

ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)
読了日:05月12日 著者:シェイクスピア

5月はこの1冊のみ。今年は演劇を少し観始めてみたいと思っていたのだがやっとNT at Homeに入ったのでベン・ウィショージュリアス・シーザーを観るために事前に読んだもの(英語字幕しかなく、私の力では追いつかないため)。舞台もおもしろかったがそれ以前に話がおもしろかった。今まで演劇をほとんど観たことがないのでよくわからないがおそらく少し変わった趣向なのか、お芝居の中での群衆表現をアリーナ(アリーナ?)の観客が兼ねるなど舞台装置の一部となっており、ほかにも大きな旗を頭上で送って拡げたりと観客が仕事をしていた(させられていた)。ベン・ウィショーはこれまでそれほど興味を持って観てきてはいなかったけどよい俳優だと思った、ブルータスのくそ真面目で几帳面な事務員(事務員ではないが)的なキャラクターをよく体現していた。NT at Home、短めのものからぼちぼち観ていきたい。

読み始めては中断してほかのものをまた開き、という感じで、つまりなんとなく何事にも集中できないまま過ぎてしまった。そうして読みかけのものが5、6冊ある。小説に乗れないのかなと思ってノンフィクションを開いても同じで、まあこういうときもあるけれども、どんなものが読みたいのかまったくわからない。少しずつ読みたい気分は持ち直してきてはいるので、手当たり次第とりあえず開いてみるつもり。

読みかけの中の1冊『ホラーの哲学 フィクションと感情をめぐるパラドックス』はおもしろそうと思ってすぐに買って積んでいたもので、がんばってしばらく読んでいたのだがどうも私が読みたいものではなさそうなのでこれは離脱することにした。ホラーの対象は恐怖と嫌悪感、「不浄」をかき立てるものと定義されており、それは確かにそうだろうと思うのだが、最近の自分がホラーやゾンビの表象を現実社会におけるマイノリティ(人種、障害、SOGIE、単なる外見などにおける少数派・非定型、「変わったやつ」「気味が悪い人」など)に対してマジョリティがとる態度と重ねて考えることが増えているので、おそらく視線の方向が逆で居心地が悪いのだと思う。マジョリティが自身で作り上げるコミュニティの中に生まれた、または外部からの「よそ者」、排除したい異物、ただ自分たちと違うという理由で恐怖され、嫌悪され、忌避される「モンスター」。

4月の読書

読んだ本の数:3
読んだページ数:1119
ナイス数:3

暗黒小説へようこそ ミステリーのプロが解説する、ジェイムズ・エルロイの世界【文春e-Books】暗黒小説へようこそ ミステリーのプロが解説する、ジェイムズ・エルロイの世界【文春e-Books】
読了日:04月07日 著者: 
オーバーストーリーオーバーストーリー
読了日:04月18日 著者:リチャード・パワーズ
お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門 (文春e-book)お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門 (文春e-book)
読了日:04月26日 著者:北村 紗衣

 

4月はピンチョン『重力の虹』を図書館で借りて初挑戦して序盤で離脱するという一連のイベントをやったのと、『オーバーストーリー』がそこそこの長編(電子で読んだので物理的な厚さが不明)かつ内容も相当ヘビーだったので2冊だけ。エルロイ解説本は無料の冊子(電子)で、エルロイを次々読んでみたくなるよい本だった。エルロイは読もう読もうと思いながら手がついておらず、そうこうするうちにあんなに好きだったノワールというジャンルから身も心もだいぶ距離ができてしまった。でも近々どこかでトライしたい。

オーバーストーリーはこれは怪書といってよいのではないだろうか、すごいものを読んだという感覚で、読んだことを後悔しているわけではないけれども、読んだ後死生観が変わると思う。場合によってはしんどい。なんというか、愚かな人間の行いも、人間も含むすべての生物が生息するこの地球という連続した生態系においてはすべてが身も蓋もない結論(言葉にすることはこれからもないと思う)になってしまいかねないところがしんどい。ということはTwitterには書かなかった。今は少し時間が経ってショックが薄れたので書いた。こんな誰にもわからないなんのこっちゃな書き方はしたくないけど、その身も蓋もない結論を自分で口に出すのがこわい。いちおう当たり障りのないおすすめポイントだけ引いておく。他人が読むことは止めない。というより、読もうかなと思ったなら読まないよりは読んだ方がたぶんいいし、私のような身も蓋もない行方を見出す人ばかりではないだろう。Twitterで軽く検索しても自分と似たようなことを言っている人は皆無だった。


『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』前著(になるのか)『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』よりも少しパーソナルな記述が多く、北村先生の批評のベースとなるもの、動機のようなものを垣間見ることができるちょっとおもしろい読み物だった。『お砂糖…』を補完するような位置づけになるかもしれない。批評としては私はお砂糖の方が読み応えがあると思ったけど、第4章 結婚というタフなビジネスは非常におもしろかった。結婚とはよりましな経済状態や社会的地位を手にして人生をよりましに生き抜くことを目指すタフなビジネスなのは本書の指摘通り現代でも似たような状況のはずだ。それを運命の出会いみたいなロマンチックなイベントに見せかけているのは結婚情報誌とか結婚式場とかの業界、よりも先に家父長制なのだろう。

重力の虹』はおもしろくなくはない、印象も別に悪くないんだけれども、前回書いた読む読まないの基準で考えるとやはり後回しかなという感じ。読みながら気がせいて目が滑る、今自分が読むべき本がほかにもっとあるという気持ちになる。あと自分があまり冗談を解しない人間であることも無関係ではない気がする。